音楽の友社刊 教育音楽 2004年7月号に掲載されました。
▼本文より
「変な先生でもいいじゃない」
パーカッショニスト 山口とも
創造的音楽活動のヒントになるテレビ番組がある。NHK教育テレビで2003年度に放送された「ドレミノテレビ」は歌手のUA(番組中では「ううあ」)が歌のお姉さんとして、山口ともが謎のパーカッショニスト「ともとも」として登場し、低学年の授業でできる歌遊びなどを紹介する番組だ。「NHKにしては斬新・おしゃれ」と、反響が大きかったようで、今年度も再放送が決定、ゴールデンウィークにはスペシャル番組も放映された。番組で使った曲を集めたCDも発売されるなど、ひそかなブームを呼んでいる。レギュラー出演者でパーカッショニストの山口ともさんと番組ディレクターの山岸清之進さんに話を聞いた。
「発想の芽を捨てないで」
「ドレミノテレビ」で子どもたちを相手にしていて思ったのは、何か一緒のことをやろうとした時に、みんなと違うことをする子がいても、その子の”発想の芽”を拾ってあげることがとても大事だということなんです。 例えば「ここにある、いらなくなったもので楽器作ろうよ」って呼びかけた時に、すごく色を気にする子ども、こだわるタイプっているんですよね。
「このものを作るのに、いろんな色のシールを貼っちゃうわけ?音がミュートされて聞こえなくなっちゃうのに」と、言いたいところですが、でもその子にとってそれは関係のないことであって、シールを貼ることで、その楽器を一生大事にするかも知れませんよね。音がつぶれていようが自分の気に入ったもので演奏することのほうが大事かもしれないんです。
教科は違いますけれど、僕はこどものころ、図工の時間に言われたことがあるんです。「ちょっとこの絵は気持ち悪いね」って。先生にそう言われちゃったら終わっちゃうじゃないですか。「僕はそんなつもりで書いていないのに」
でも「どんなふうに感じたの?」というところを引き上げて「そうか、じゃあそこを伸ばしていこうか」ということを言ってあげると、その科目が好きになるんじゃないか、またはそういう風に考えた自分のことを好きになれるんじゃないかって思います。
いろいろなアーティストとお話をすると、「幼児期に習った先生が面白かった」という方が多いんです。
6年間の授業の中でいろんな楽曲を聴くと思うのですが、どんな聴き方をしているのか、先生が「僕はこう思う」と伝えることがすごく大事だと思います。たとえその先生がとても変な受け止め方をしていても、人と違う発想をしている先生の方が印象に残る。そうすると「あの先生が面白いからやってみよう」という気になると思うんです。
子どもは、その先生に習わなければいけない運命にあるわけですから(笑)、「やっぱり、小学校の時のあの音楽の先生、変だったよなぁ~」っていう思い出、音楽として何かを学んだというより、その言葉が残るだけでも僕はいいと思っています。
「タンバリンだけでも気持ちは伝わる」
楽器の演奏って、その人の気持ちがものすごく出てしまうもの。だから楽しく弾いてみましょう弾いてみましょうというと、楽しく聞こえるじゃないですか。
楽器ひとつで楽しい気持ち、悲しい気持ち、つらい気持ち、そういうボキャブラリーをいくつ表現できるかと課題とか、気持ちを表現させるのもひとつの創造力のつけ方でもあるんじゃないかな。
例えばタンバリン一つだけで会話をするとか。正確には何を言っているかは分からないですよ、でも分かる気がするんです。強弱のニュアンスや相手の表情とかで。
だから、その楽器の正しい使い方が分からなくても、それはアリだと思うんです。タンバリンを「なんだかもう、くやしくてって頭で叩いちゃった」っていったら、くやしさの表現はそうなるんだろうと思うんです。
創造的な活動には答えがないですけれど、最終的に子どもが「やって楽しかった」という満足感があって、「こんな単純なことなんだ、音楽って」ということに気づけばいいと思っています。いいかげんな言い方だけど、それしかない。その笑顔が残ればいいんじゃないかという気がします。
僕は小・中・高と学校の音楽の成績はよくなかったし、今でも完璧に譜面が読めるわけじゃないけれど、音楽を続けています。
「なんでこんなに音楽が好きなのかな」って、自分の中で問いただしてみると、いい音、きれいな音、魅力的な音がするから叩くわけで、それを人に聞いてもらって、「どう?いい音じゃない?」って共感してもらいたいから。
そして、その音を出している自分が幸せな顔をしていて、それを観ている人も幸せになると、やっている意味があるのじゃないか、という、ただそれだけの思いなんです。