トモオフィス/廃品打楽器協会

Coffee Fan No.247 に掲載されました

Coffee Fan
新聞・雑誌掲載
時計2004年1月6日(火)

Coffee Fan

▼本文より

い・い・も・の・み・つ・け・た!
山口ともさんの”リサイクル楽器”

 リサイクル楽器といっても、不要になった楽器の修理品や再利用ではない。パーカッショニスト、山口ともさんの作るリサイクル楽器は、内側の底にスニーカーが固定されている二つの一斗缶、枝打ちした太さのばらばらな楠の木を発泡スチロール箱の上に並べただけのもの、太さや長さの違う束ねられた八本の塩ビの水道管、円筒形の空き缶二個を何の部品かわからない太いスプリングでつないだものといった調子で、材料はすべて楽器とは本来が無縁の廃棄物、つまりただのごみだったもの。これらを、足に着けてステップを踏んだり、これまた捨てられていた木槌やスリッパ。おしゃもじで叩いたり、金属棒でこすると、たちまち楽器に変身するのである。

欲しい音を探して行き着いた手作りの楽器

 なぜ、こんなものを作り出したのでしょうか。そんな疑問が頭をかすめました。不要になったものを利用して楽器を作る試みは山口さんが始めてではない。廃棄物やこわれた楽器の部品を利用して、ギターとかバイオリンといった実際の楽器に近い形をしたものを作る例は今までにも見られました。ところが、山口さんのリサイクル楽器は多少の手を加えるものの、ほとんど廃棄処分されたときの形のままのものを、つなげたり組み合わせたり並べただけなのです。しかし、山口さんの巧みな演奏を聴くと、疑問は直ちに晴れました。これらは、いわゆる既製の楽器にはない音質によって独特の演奏効果を生み出すのです。つまり、決して既製の楽器の代替品なのではなく、独自の楽器なのだと納得できます。

 山口さんのリサイクル楽器作りは、一九九五年に音楽劇『銀河鉄道の夜』の音楽を手掛けることになり、既製の楽器ではどうしても思った通りの音が出ず、それなら自分で楽器を作ってしまおうと思ったことがきっかけだそうです。結局、『銀河鉄道の夜』で使った楽器はすべて手作りのリサイクル楽器となりました。そのとき誕生した円筒形の空き缶二個を太いスプリングでつないで作った「スペース・スプリング」は悠久の宇宙空間を描き出すことの出来る逸品で、山口さん自慢の”名器”の1つです。山口さんの担当するパーカッションというパートは、曲の味つけをするパート、曲を聴いて感じた自分の世界を表現できるパートで、そのために何を使っても、どんな音を出してもいいパートなのです。

 一九九八年五月、山口さんは日本打楽器協会主催の打楽器フェスティバルに参加して、さまざまなリサイクル楽器で演奏を行いました。そのとき、ニューヨークのパーカッショングループ”パルス”とも共演。翌九九年、パルスに呼ばれ、ニューヨークのクイーンズカレッジのコンサートホールでパフォーマンスをして、リサイクル楽器を大いにアピールしてきました。その折に持参した楽器は、前述の「スペース・スプリング」、発砲スチロール箱に金属蓋のビンを埋め込んだ「ビン・キャップ・ドラム」、鉄製アングルの切れ端「鉄アングル」、実際に庭に生えていた楠の木の枝打ちした太い枝を発砲スチロール箱の上に並べた「クスノキ・ドラム」、与論島で拾った珊瑚数個を針金で吊した「サンゴ・チャイム」、スタンド式の灰皿の脚と皿をはらして組み合わせた「アッシュ・ベル」、エアーコンダクトそのままの「ダクトちゃん」などで、今でも演奏会で活躍しています。

 車を走らせていても、ゴミがあると、どんな楽器になるかなと考えると楽しいとおっしゃる山口さんのリサイクル楽器作りは、まだまだこれからも続きます。