トモオフィス/廃品打楽器協会

広告 2004年5月号に掲載されました

新聞・雑誌掲載
時計2004年5月6日(木)

博報堂 広告 2004年5月号に掲載されました。

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▼本文より

日本をおもしろくする77人
山口とも(ともとも)

ドレミノテレビがおもしろい

2003年春、NHK教育テレビでスタートした「ドレミノテレビ」は、学校放送というカテゴリーの中にある番組。UAがこどもたちのお手本となって童謡を歌えば、山口ともがワークショップによって音楽本来の楽しさを伝え、珍しいキノコ舞踏団がリズム感を自由に育んでいく。これまでのNHK教育テレビのイメージからしたらかなりぶっ飛んだ番組だが、こどもたちの反応も上々の様子。番組を見たこどもたちからメールや手紙がたくさん送られてきている。

こどもたちが踊りだす番組をつくってます
NHK番組制作局 学校教育番組ディレクター 山岸清之進

子供たちの感受性を養い、音楽によるコミュニケーションの楽しさを伝えることをコンセプトのひとつにしている「ドレミノテレビ」。小学校1・2年生はアバンギャルドとも語る山岸氏が編成した出演者とスタッフは、第一線で活躍する方々ばかり。コアな大人も楽しめる番組が、教育テレビにあった

♪スペシャルな出演者たち

―今までのNHK番組とは違い、出演者がサブカルチャーの世界で人気の人たちばかりですが、人選はどのように?

「まず、歌のお姉さんの“ううあ”ことUAさんは僕がいいなと思ってオファーを出しました。ワークショップを担当している“ともとも”こと山口ともさんについては、前のシリーズに出てもらったときにすごく面白かったので、是非という展開で。こどもたちと一緒に音楽を学ぶ“はるる”こと木南晴夏さんはオーディションから出演をお願いしました。」

―UAさんが出演していることに、実はとても驚いたのですが。

「あまり知られていないかもしれませんが、プライベートでは彼女自身がお母さんで、ちょうど番組が始まった去年の4月は、お子さんが小学校に入るタイミングがったんです。なので、オファーしたとき、お子さんが番組の対象学年だったこともあり、すごく音楽教育についても関心があるようでした。

―オファーのときはどんな話をされたのですか?

「歌のお姉さんの存在は、どの音楽番組のシリーズでもいますが、今までは正しい音程、発音で歌うことが重要視されていたんです。でも、僕はそういうことも大切かもしれないけど、音楽の楽しさとか表現力は、また違うところにあるのではと考えていました。そんなことをUAさんに話したら、自分も同じようなことを考えている、すごく共感したと言ってくれて」

―UAさんの「歌のお姉さん」としての童謡の歌い方も、すごく斬新ですよね。

「実は同様ってすごく歌詞も深いんですよね。単純な表現で、旋律もシンプルなのに、逆にうまく歌うことはすごく難しいんです。童謡の持つ歌の世界観をちゃんと消化して表現できることは、一番重要かなと思います。こどものための音楽って本当は、「こどのがいい」と思うものは「大人がいい」と思うものでもある、それは逆もしかりなんですけど。だからUAさんなりの歌い方もすごくいいと思うんです。」

―珍しいキノコ舞踏団の振り付けも、新しいリズム感というか。

「振り付け的な振り付けではなくて、こどもが自然に動いた動きみたいになるにはどうしたらいいかと考えていたんです。きっと、味のある動きをできるのはキノコだけかと。」

―出演されている方々がアイデアを出すこともありますか?

「リハーサル時にたくさんアイデアを出してもらっています。でも、やりたいことはほとんど一致していて、こちらから無理やり何かをやってもらうこともありません。「それもいいですね!」という感じで番組が構成されていきます。どちらかといえば、僕がめちゃくちゃなことをやろうとすると、UAさんが「それ、こどもにはちょっと」見たいな事を言ってくれます(笑)。ともさんのワークショップにしても出演者の方々に教えられることが多いですね。」

♪今どきのこどもたち

―ともさんのワークショップについては、また後ほど伺わせていただきたいのですが、実際のところ、今のこどもたちはどんな感じですか?

「子供たちのオーディションをしたときに感じたことは、思った以上にマセているなあと。何でも知っているんですよ。きっとメディアの情報が行きわたっているからだと思うんですけど。大人が普段耳にしているような音楽は、彼らも耳にしているんです。普通に生活をしていて耳に入ってくる音楽もいいとは思うのですが、できれば、こどもたちには質のいいものを聴かせて上げたいですね。」

―番組に出ている子供たちには、どんなことを期待していましたか?

「僕は、子供が子役的にセリフを言ったりすうのが嫌いで、台本にない生な反応を撮れればと思っていました。だから、特にワークショップにリハーサルでは、本番と同じことはやらないんですよ。題材や楽器を変えるとかして、本番でいかに新鮮な印象を持ってもらえるか、いろいろと工夫をしています。あとは、リハーサルのときに子供がどんな反応をするのかよく観察しています。これはきっとおもしろがるだろうということでも、リハーサルで全然反応しないこともあるんですよ。逆に思っても見なかったことを面白がってみたり。本番では、子供が楽しそうに反応したところを中心に構成するようにしています。」

―だから、こどもの表情がすごく生き生きとしているんですね。

「こどもって冷めてるから、リハーサルでやったことを本番でやっても、つくった笑いしかできないんですよね。」

―こどもたちを観察していて印象にのこている回はありますか?

「“手作り楽器を作る”回のとき、楽器を作ることは面白がってやっているんですけど、こどもは一回作るとすぐ飽きちゃうんです。でもやってるうちに、その手作り楽器の音が「それ何とかの音みたいだね」という話になると、こどもたちの目が輝くんです。ともさんも、こどもたちをうまくまとめてくれて。最後みんなでともさんの指揮のもと、つくった楽器で合奏したんですが、いいワークショップでした。」

♪こどもたちの成長

―オーディションでは、音楽好きな子を選んだのでしょうか?

「そんなことはありません。しかも、わざと言うことを聞かない子ばっかりを選んだんですよ。最初は本当に言うことを聞かなすぎて大変でした(笑)。それがだんだん回が進んでいくと、音楽を聴く心が出来てきて、いい音って何かということを、なんとなく感じとれるようになっていたんですよね。いい音に対しては、ちゃんと静かに聴く様子が出てきたんです。こどもたちが音楽に対して興味を持ってくれないと、きっとひっちゃかめっちゃかな番組になっていたでしょうね(笑)。」

―そうだったんですね(笑)。こどもの音楽に対しての姿勢が変わった、成長したなあというエピソードはありますか?

「最初の頃、ひたすら元気よく声を張り上げて歌えばいいと思っていたみたいだったんですよ。まあ、それはそれでカワイイんですが。でも、だんだん番組を重ねていくにしたがって、歌詞の世界観をなんとなく感じ取ってくれるというか。歌詞について説明すると、あぁそうかと、こどもたちなりに上手に表現できるようになっていったんですよね。例えば「雪」という歌を録ったときですが、あの歌、子供ってひたすら元気に歌ってしまいがちなんです。それを、ちょっと違う感じでやりたいなと思って、アレンジを優しい感じにしたんです。そして、「“ううあ”も外で遊びたいんだけど、風邪をひいて一緒に遊べないんだよ」と、子供たちに話したら、自然と優しい歌い方になったんです。演奏がリットしているところも自然にゆっくり歌ったりして。子供たちの歌い方にすごく表現力が出てきたなと実感しました。」

―番組に出演しているこどもたちの成長は、すばらしいですね。

「でも、それだけでは満足できません。学校の現場でも同じように、こどもが音楽に関して成長してくれたらいいなあと思っています。もちろんこれは番組本来の目的にでもありますし。僕は子供のころ、小学校の音楽に時間って、すごくつまらないと思っていたんです。正しく歌おうみたいに言われたり、鍵盤を弾こうとか、音程はこうとか言われて。それでちょっとでもそこから外れたらもうダメみたいな。もちろん、今ではそれらの重要性もよくわかりますが、番組で伝えたいのはそういうことではなく、あくまでも「音楽って楽しいんだ」ということなんですよね。」

♪音楽のワークショップ

―学校に対しては、教育の現場で不足しているところを補うなどもあると思うのですが、ワークショップ形式というのも新しいですよね。

「実は音楽の番組で、生のワークショップをやるのは初めての試みだったんです。それに加えて、番組でいつも使う楽器は、鍵盤楽器ではなく打楽器なんです。なので、学校の先生方から“これなら自分でも出来るかも”“こういう番組を待っていました”というご意見もいただきました。パーカッショニストの山口ともさんは、廃品物などを使って打楽器にしてしまうんですが、ともさんのワークショップを、先生方が自分なりにアレンジして、実際に授業でやっていただけるとうれしいですよね。」

―例えばどんな授業スタイルでしょう?

「“ドレミノテレビ”は小学校1~2年生向けで、その学年では、音楽を専門でやってきた先生が音楽を教えているケースがかなり少ないという現状があります。学級の担任の先生が音楽が苦手でも、授業で音楽を教えないといけない場合もあってとくに地方ではそういう状況下にある先生が多いらしいのです。”ドレミノテレビ“は15分番組なのですが、45分間の授業のうち、15分番組を見て後の30分を使って先生もこどもと一緒になってワークショップをやっていく。そういうスタイルで学校で取り入れてもらえたらとも思っています。」

♪番組へのお便り

―学校の先生や親からの感想はどんなことが多いですか?

「実は、親や学校の先生の意見としては、最初賛否両論、真っ二つに割れていたんですよ。気に入る人もいれば、こんなのまったくダメだという人もいて、中間がなかったんです。否定的な意見を挙げると、衣装が派手すぎるとか、あの歌い方はなんだとか、もっと正しい歌い方をしてほしいという意見が多かったですね。あと、朝の番組なのにけだるいだとか・・・、いろいろろ言われました。でも、そういう反響があっても、歌の部分っていうのはすごく好評だったんです。歌のうまさに震えるくらい感動したとか。童謡ってこういう歌だったんだということに初めて気が付いたというような。最近ではずいぶん支持のほうが強くなってきているんですよ。」

―番組が視聴対象としている、こどもたちの反応は?

「自分で手紙やメールを書いてくる子は、ううあ好きですとか、はるはるかわいいですとか、そういう感じのものが多いですね。親からは、番組が始まると、それまで子供がいくら泣いていても泣き止んで、夢中になって見ていますというメールをいただいたり。実際、家庭では番組の対象年齢よりも小さい1歳、2歳の幼児たちが、お母さんとかお父さんとかと一緒に見ている例がすごくあるらしく、そういう方からの反響も大きいですよ。うちのこどもはいつもテレビの前で固まってますみたいな(笑)。」

―こどもが夢中になって見てくれているのは嬉しいですよね。

「そうですね。この番組はよい子が見る番組というよりは、もっと楽しくて、いつの間にか子供が踊りだしてる番組になればと思って作っています。人って、5年10年経った時に、多くのことを忘れちゃうじゃないですか。だから、どれだけこの番組の内容や番組で身につけたことが日宇との記憶に残るかということも考えています。“ドレミノテレビ”を見た子供たちが番組で見たワークショップや歌を、10年後にも思い出してくれたらうれしいです。」

山岸清之進 (やまぎし せいのしん)

1974年生まれ。慶応大学大学院政策・メディア研究科修了。在学中にメディアアートユニット“flow”を結成。1999年NHK入局。「体験!メディアのABC」「スーパーえいごリアン」など、主に子ども番組の制作を行う。現在「ドレミノテレビ」担当ディレクター

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子どもの世界って、大人から見たらどうってことはないようなことにすごくこだわっていたりします。
例えば、物を叩いて音を出す時に変なポーズをしていたりすると、音に関係なくても、このポーズが本人にとってはすごく重要なんですよね。ここを気にかけて褒めてあげると、子どもはすごくやる気になるし、自分自身を好きになっていくと思うんです。
それは番組で言えば、音楽を好きになってくことでもあります。実際、番組が進むにつれて、子どもたちのリズムとか音に対する感受性が研き澄まれていくのが如実にわかりました。
だから、子どもたちには自分の中にいろんな“好き”を発見してほしい。そして、自分をどんどん好きになる。
それが人生です。

山口とも