トモオフィス/廃品打楽器協会

暮らしの風 2006年11月号に山口ともの特集インタビュー記事が掲載されました

暮らしの風
新聞・雑誌掲載
時計2006年11月6日(月)

朝日新聞の「暮らしの風」 2006年11月号に
山口ともの特集インタビュー記事が掲載されました。

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▼本文より

廃品が世界で一つの楽器になる!

「ジャン、ジャン、ジャカジャカジャン」。頭に缶をかぶったおじさんが、首につり下げた空き缶をバンバンとたたきながらホールに入って来た。子どもたちからは大きな歓声と笑い声。”ともとも”こと山口ともさんが廃品で作った楽器を演奏するコンサートの始まりだ。

自分だけの”音”を作ってみよう

 この日の会場は大阪市にある「いずみホール」。上質な音響設備と格調高い佇まいから、多くの名だたる音楽家が「ぜひここで演奏したい」と名前を挙げる本格的なクラシックホールだ。この会場で子どもたちに生の音楽に触れてもらい、音楽を身近に感じてもらおうと、参加型規格「いずみ子どもカレッジ」が昨夏にスタートした。今年はこの企画に、廃品を使った楽器作りで注目を集める打楽器奏者、山口ともさんが登場。小さな子供がいる人なら、「ドレミノテレビ」(NHK教育テレビ)の”ともとも”と紹介したほうが早いかもしれない。
 子どもたちは午前中のワークショップで山口さんと一緒に楽器を作り、午後はその楽器を手にしてコンサートにも参加した。

 ワークショップを訪れた。開講してすぐ、山口さんがパフォーマンスを披露。配管パイプをアコーディオンのように引き伸ばして不思議な音を発したり、二つ合わせた紙コップで馬の蹄の音を出したりと、子どもたちを一気に”廃品楽器”の世界へと引き込んだ。ビーズがいっぱい付いたうちわを揺らすと、雨の音。鍋の太鼓がリズムを刻み、材木の切れ端を並べた木琴がメロディーを奏でる。演奏が終わると、もうそこは”ともともワールド”。どこにでもある見慣れたモノがおもしろい楽器に変身することに、子どもたちは目を輝かせた。

さっそく、子どもたちも楽器作りに挑戦。ペットボトルで作る「ペットシェイカー」は、廃品から作る楽器の基本だ。「中に好きなものを入れて音を出してごらん」と山口さん。中身は小豆や米、ビーズなど。1種類だけを入れるこもいれば、何種類かを混ぜてみる子もいる。次第に部屋のあらゆるところからペットシェイカーを振る音が聞こえ出す。自分で作った音を何度も何度も確かめる子どもたち。
 ペットシェイカーが完成したら、その後は自由に自分の好きな楽器を作る。各自家からいろいろな廃品を持ってきているが、子どもたちは山口さんが持ってきた”木琴”に興味津々。発泡スチロールの箱の上に木の切れ端や竹を置き、バチは針金ハンガーで作る。主催者が予備にと用意した発泡スチロールや材木があっという間になくなってしまった。
 山口さんは一人ひとりの作業を丁寧に見て回る。「一度たたいてみて」と、長い前髪を手で押さえつつ耳を傾ける姿は真剣そのもの。まるでギターのチューニングか、ピアノの調律のよう。子どもたちの力作に「すごい! それいい音だね」と顔をほこらばせる。その喜ぶ顔を見て、子どもたちはもっといい音を探そうと、どん欲になっていく。最初はただ楽器をたたいていただけの子どもも、徐々に音の出方を気にし始める。「トントントン・・・」。少したたいては木を切ったり向きを変えたり、たたくものを変えてみたり。少しずつ調節しながら自分の音を発見していく。気に入った音が出れば、リズムをつけてたたきたくなってくる。「それを3回繰り返したらおもしろいかも」。山口さんのアドバイスで、音がメロディーへと変わっていく。

「感性のままに、自由に音楽を楽しんでもらいたい」

オリジナル楽器との出合い
 
 自らを「廃品打楽器協会会長」と名乗る。有名なミュージシャンのツアーやレコーディングにも参加するプロの打楽器奏者であり、写真家でもあるが、名刺の一番始めにはこの肩書きを載せている。「自分で勝手に作った協会です。会員が一人もいないので、私が会長」
 
 廃品や廃材で楽器を作り始めたきっかけは、1995年に打楽器担当として参加した音楽劇「銀河鉄道の夜」。「宇宙の音」を求められたが、どの楽器で試しても納得のいく音が出ない。宮沢賢治のメルヘンチックな物語が持つ、抽象的なムードや宇宙の空気感のようなものを音にしたかった。だからこそ、音を聞いた時に特定の楽器が連想できてはいけないと思った。「自分で作るしかない」と試行錯誤の末にたどり着いたのが、トマトの水煮缶や針金ハンガーなどで作ったオリジナル楽器「スペーススプリング」。以後、廃品での楽器作りに夢中になっていく。
 しばらくすると、幼稚園や保育園の先生向けに講習会を開いてほしいと声がかかるようになる。うわさはさらに広がって、子ども劇場や幼稚園、小学校で演奏する機会も増えた。また、環境への意識が社会的に高まる中、”リサイクル楽器”として注目を集め、環境イベントにも呼ばれるようになった。

「本来は、前に出て話すのは苦手なんです」

 「このヘアスタイルは12年前からです。フリーのミュージシャンですから、仕事を得るためには実力以外にも目立つことが必要だったんです」。そこで、当時のスタイリストと一緒に考えたのが、長めのもみ上げにチョビひげというスタイル。めがねもその雰囲気に合わせた特注という。以来、もみ上げの形がJから、毛先がくるんとO形になったという多少の変化はあるが、休日もずっとこのスタイルを通している。
 その効果は思ってもみない形で表れた。ミュージシャンの一人として参加していた「まちかどドレミ」(NHK教育テレビ)という番組で、「おもしろいパーカッション演奏者がいる」とディレクターの目にとまり、それが「ドレミノテレビ」のレギュラー出演へとつながった。最初はとまどいもあったというが、そのままのスタイルで出演すればいいと言われ、「それなら・・・」と出演を決意。「本来は前に出て話すなんて苦手なんです。でも、自分がやっている廃品打楽器の話ならできるかもしれないとおもいました」。「ドレミノテレビ」は、”ううあ”こと歌手のUAとの不思議なやりとりと、独特な音楽の世界が、子どもだけでなく親世代にも受け、何度も再放送される人気番組となった。

自分が作った音には正解も不正解もない

 自身の子どもの頃を、「変な子だった」と振り返る。「人と同じことが嫌いだったんです」。例えば、スケッチをして書いたものが周りのみんなと全然違う場合も、恥ずかしいと思うのではなく、独自の感性を誇りに思うような子どもだった。空を黄色く塗って先生にしかられたときには、「じゃ、もう描かない」と本気でそう思った。
 「私は子どもを子どもとしてみていないんです」と山口さん。「大人も子どもも、アイデアは対等だと思うんです。その子からしか出てこない発想はたくさんある。そこには正解不正解なんていうものはない気がするんですよ」。それは廃品で作る楽器にも通じるという。「廃品から生まれる楽器は、音の持っている楽しさだけを頼りに演奏できる唯一の楽器。自分がいいと思ったらそれでOKなんです。一生懸命練習する必要もないし、「音が違う」と誰かに注意されることもない。失敗だと決めるのは、作った自分だけです」。失敗だと思っても、それが案外いい音楽になることもある。子どもたちに自分の感性を大事にすることを伝えたいという思いが、この活動のエネルギー源にもなっている。

足音も雨音も音楽

子どもたちの中には、表現することが得意な子もいれば苦手な子もいる。「自由に楽器を作れと言われても、どうしていいか分からない子だっている。その気持ち、実はものすごくよくわかるんです。私は楽器には興味があるけれど、もし他のことだったらどうしていいか分からないと思うから」。だからまずは、「おもしろそう!」と思ってもらいたい。いろいろ見せて興味がわけば、子どもたちは自然に楽器を作り始める。何の言葉もいらない。「だんだん作業に熱中して、最後には音を出して楽しそうにしている姿を見ると、本当に嬉しいですね」
 将来の夢は、いつでもそこに来れば、廃品の楽器を作れる場所を作ること。「今はこちらから出向くことがほとんどですが、作りたいときに来られる場所があればいいなと思うんです」。また、街全体のプロデュースを手がけたいとうう思いも持つ。「街のいたるところに、音の出るからくりがあったら楽しいでしょ?」
 足音も雨音も、それ自体がすでに音楽。「子どもたちには、生活の中でもっと音楽を身近に感じてほしい。そうすれば毎日がもっと楽しくなると思うんです。そのために、これからも廃品の楽器を子どもたちと一緒に作り続けられれば・・・」

 自分で作る楽器、自分で奏でる世界で一つだけの音。子どもたちは、山口さんとの出会いをどう受け止めただろう。「子どもたちが大人になったとき、そういえば子どものころに、おもしろい楽器を作る変なおじさんがいたなぁと思い出してくれたら最高ですね」